在職老齢年金は、老齢厚生年金を受け取りながら働く場合に、給与と年金の合計額が一定の基準額を超えると年金の一部または全部が支給停止になる仕組みです。「年金をもらいながら働くと年金が減る」という話を聞いたことがある人は多いと思いますが、2026年4月にこの基準額が大きく引き上げられ、状況が変わりました。この記事では、公式の計算式に基づいて具体的な給与・年金パターンで試算し、2026年4月の改正前後でどれだけ結果が変わるかを確認します。
※本記事の制度内容は2026年8月時点の日本年金機構・厚生労働省の公表情報に基づいています。支給停止調整額は毎年度改定されるため、実際に検討する際は最新情報を確認してください。
この記事の結論
- 在職老齢年金は、老齢厚生年金の月額+給与等の月額換算額が基準額を超えると、超えた分の半分が支給停止になる制度
- 2026年4月(令和8年度)から、支給停止調整額が51万円から65万円に引き上げられた
- 旧基準(51万円)で減額が発生していた4パターンのうち3パターンで、新基準(65万円)では減額が完全にゼロになった
- 残る1パターン(高めの年金額+高めの給与)も、減額幅が約4分の1に縮小した
- 老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象にならないため、影響があるのはあくまで老齢厚生年金の部分のみ
在職老齢年金とは何か
在職老齢年金は、60歳以降に厚生年金保険に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取る場合に適用される調整の仕組みです。年金額と就労収入の合計が一定の基準額を超えると、超えた分に応じて年金の一部または全部が支給停止になります。
計算式
日本年金機構が示す計算式は次の通りです。基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額以下であれば、支給停止は発生せず年金は全額受け取れます。超えた場合は、超えた金額の全額ではなく「半分」が支給停止額になります。
基本月額 + 総報酬月額相当額 が 65万円以下の場合
→ 全額支給
65万円を超える場合
→ 支給停止額(月額) = (基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円) ÷ 2
→ 実際に受け取る年金額(月額) = 基本月額 − 支給停止額
※この式の計算結果が0円を下回る場合は、老齢厚生年金は全額支給停止になります
- 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額 +(その月以前1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12)
- 支給停止調整額(基準額):2026年4月以降は65万円
対象になるのは老齢厚生年金だけ
在職老齢年金による調整の対象は老齢厚生年金(報酬比例部分)に限られます。国民年金から支給される老齢基礎年金は、在職老齢年金による支給停止の対象にはならず、全額支給されます。この点は誤解されやすいため、まず押さえておく必要があります。
なお、対象になるのは60歳以降に厚生年金保険に加入して働く場合が基本ですが、70歳以降で厚生年金の被保険者資格がない場合でも、厚生年金の適用事業所で引き続き働いていれば在職老齢年金の調整対象になります(いわゆる「70歳以上被用者」)。
2026年4月の改正で何が変わったか
在職老齢年金の支給停止調整額は、これまで段階的に引き上げられてきました。
| 年度 | 支給停止調整額 |
|---|---|
| 令和4年度 | 47万円 |
| 令和5年度 | 48万円 |
| 令和6年度(2024年度) | 50万円 |
| 令和7年度(2025年度) | 51万円 |
| 令和8年度(2026年度、2026年4月〜) | 65万円 |
令和7年の年金制度改正法により、法定の基準額が令和6年度価格の50万円から62万円へ引き上げられることが決まり、これに賃金変動に応じたスライドが適用された結果、令和8年度の実際の支給停止調整額は65万円になりました。令和7年度の51万円からは約14万円の大幅な引き上げです。
高齢者の就労が一般化する中、「年金が減るのを避けるために就労時間を調整している」という声が以前から指摘されており、今回の改正はこうした就労抑制を緩和する狙いがあります。
FIREやセミリタイアを目指す人にとっても、「60代前半で年金を受け取りながら軽く働く」という選択肢は現実的な資金計画の一部になり得ます。基準額がどう変わったかを正確に知っておくことは、この選択肢を検討するうえで重要です。
まずは自分の年金額の目安を、繰り上げ・繰り下げも含めて確認してみてください。
具体的なパターンで試算する
制度の説明だけでは「自分の場合どうなるか」がわかりにくいため、老齢厚生年金の基本月額と給与(総報酬月額相当額)の組み合わせをいくつか設定し、公式の計算式に基づいて試算しました。
※以下の数値は資産シミュレーター本体の試算機能ではなく、日本年金機構が公開している計算式を独自に再現し、公式の計算例(基本月額18万円+総報酬月額相当額48万円→支給停止額0.5万円)と突き合わせて確認した上で算出したものです。
基準額65万円(2026年4月〜)での試算
| 基本月額(年金) | 総報酬月額相当額(給与) | 合計 | 支給停止額 | 実際に受け取る年金額 |
|---|---|---|---|---|
| 8万円 | 20万円 | 28万円 | 0円 | 8万円(満額) |
| 8万円 | 50万円 | 58万円 | 0円 | 8万円(満額) |
| 14万円 | 50万円 | 64万円 | 0円 | 14万円(満額) |
| 20万円 | 35万円 | 55万円 | 0円 | 20万円(満額) |
| 20万円 | 50万円 | 70万円 | 2.5万円 | 17.5万円 |
5パターンを試算したところ、支給停止が発生したのは「基本月額20万円+給与50万円」の組み合わせのみでした。年金額・給与のどちらもかなり高めの水準でなければ、基準額65万円に届かないことがわかります。
旧基準(令和7年度・51万円)との比較
同じパターンを、2026年3月まで適用されていた旧基準(51万円)でも試算し、比較しました。

| 基本月額 | 給与 | 旧基準(51万円)での減額 | 新基準(65万円)での減額 |
|---|---|---|---|
| 8万円 | 50万円 | 3.5万円 | 0円 |
| 14万円 | 50万円 | 6.5万円 | 0円 |
| 20万円 | 35万円 | 2.0万円 | 0円 |
| 20万円 | 50万円 | 9.5万円 | 2.5万円 |
今回の試算で分かったこと【結論】
旧基準(51万円)で支給停止が発生していた4パターンを新基準(65万円)で試算し直したところ、そのうち3パターンで減額が完全にゼロになりました。 残る1パターン(基本月額20万円+給与50万円)も、減額幅が9.5万円から2.5万円へと約4分の1に縮小しています。
もちろんこれは限定的な組み合わせでの試算結果であり、年金額や給与がさらに高い場合には引き続き支給停止が発生します。判定は給与の額だけでなく「基本月額+総報酬月額相当額」の合計で決まるため、たとえば老齢厚生年金の基本月額が20万円程度であれば、総報酬月額相当額35万円程度まで働いても2026年4月以降は支給停止が発生しない、という形で年金額とセットで見る必要があります。
自分の場合はどうなるか確認する
自分の年金額の目安がまだわからない場合は、繰り上げ・繰り下げによる受給額の変化も含めて、まず年金受給タイミングのシミュレーターで確認してみてください。入力したデータが外部に保存されることはありません。
よくある質問
Q. パートやアルバイトでも在職老齢年金の対象になりますか?
パートやアルバイトであっても、厚生年金保険の被保険者となる場合は在職老齢年金の対象になります。短時間労働者への厚生年金の適用範囲は近年拡大しているため、勤務先の規模や労働時間によっては対象になることがあります。厚生年金に加入しない働き方であれば、原則としてこの調整の対象にはなりません。
Q. 老齢基礎年金も減額されますか?
されません。在職老齢年金による調整の対象は老齢厚生年金(報酬比例部分)のみで、老齢基礎年金は就労収入にかかわらず全額支給されます。
Q. 支給停止調整額は今後も変わりますか?
支給停止調整額は毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。2026年4月に65万円へ引き上げられたのは直近の改定であり、翌年度以降さらに変わる可能性があります。
Q. 繰り下げ受給と在職老齢年金は関係しますか?
厚生年金に加入しながら繰り下げをする場合、在職老齢年金の適用によって支給停止される部分は、繰り下げても増額の対象になりません。繰り下げを検討する際は、在職老齢年金による停止部分がどの程度あるかも含めて考える必要があります。
まとめ
- 在職老齢年金は、老齢厚生年金と給与等の合計が基準額を超えると超過分の半分が支給停止になる制度
- 2026年4月から基準額が51万円→65万円に大幅引き上げされた
- 試算した複数パターンのうち大半で、旧基準では発生していた減額が解消された
- 老齢基礎年金は影響を受けない
- 年金額・給与の水準によっては引き続き支給停止が発生するため、自分の場合はシミュレーターで確認するのが確実
